香りの分析 〜fragrance analysis 〜
マジー ノワールは危険な香水である。
石鹸のような香り、ナチュラル、ハーバル、ヒーリング、ロハスやエコという言葉が氾濫する昨今、マーケットが今求めている香りの理想とはかけ離れた、否、「そんな戯言を」と嘲笑うかのように強烈なオーラで圧倒し誘惑する。それがマジー ノワールの姿である。
錬金術にインスピレーションを受けたマジー ノワール。それは香りとしての完全体を目指した、いわば「フェロモンとしての香水」という香水が持つ原始的な欲求に従った香りである。そう、それは万人を陶酔させることができる魔法のような香水を指す。
では、実際のマジー ノワールの香りはどういったものなのだろうか。誘惑、陶酔、フェロモンという言葉から、濃厚で甘い香りを想像するかもしれないが、そう簡単な香りではない。ひと言では表現できないコンプレックスな香りなのであるが、黒魔術(マジー ノワール)という言葉には相応しいスモーキーでダークな香りであり、地の底から湧きあがるようなパワーと熱をも感じさせる。
香料的にはシベット、ムスク、カストリウムという3大動物性香料が持つ温かさ、パチュリ、ガルバナムの強いグリーン様の香り、ベチバー、オリスルートなど植物の根独特のマットな香り、そしてシダーや白檀のウッディノートが柱となっている。
この取扱いに注意を要するような香りをどう使いこなすべきか。ここではごく少量を素肌へ忍ばせることを提案したい。今まで体験したことのないミステリアスな香りは周囲の人の興味を刺激するだけでなく、その微かな香りをもっと感じたいという情動へと変わるであろう。
いつも誰かを誘惑し続けるマジー ノワール。それを身に纏った者は、いつしかその香りと甘い共犯関係に陥る。そんな危険な香りの罠に身を投じてみないか。 |