香りの分析 〜fragrance analysis 〜
「ミツコ」、日本女性の名がつけられ、シャリマーやルールブルーなど数々の名香を創造した、ゲラン社3代目の調香師ジャック・ゲランによって1919年に創出されたシプレ・フルーティの代名詞と呼ぶに相応しい名香。日本人女性の真の美しさを表現したような壮麗な香り。
「ミツコ」という名は当時ベストセラーであった小説「ラ・バタイユ」(戦闘)の中に登場する日本人海軍総督の妻の名から由来している。ジャック・ゲランはこの小説の作者ファーレルと親交があり、彼の小説に感銘を受け、その美しく情熱的な生き方をした架空の登場人物ミツコにちなんで香水を名づけた。しかしながら、「ミツコ」は当時、海を越えオーストリア・ハンガリーの貴族ハインリッヒ・クーデンホーフ伯爵に嫁ぎ、ウィーン社交界の華として実在したクーデンホーフ・カレルギー・光子夫人に由来したのではないかという説が根強くある。真偽は定かではないが、これほどまでに論争を呼ぶのは「ミツコ」という香りがいかにミステリアスで人々を魅了し、その香りの秘密に近づきたいと思っているかということを表しているのである。
その香りは唯一無二。香水業界ではひとつの香りがヒットすると、その流行に乗るため類似の香りが違うブランドから発売されることが多々あるが、「ミツコ」の香りは他の追随を許さない「ミツコ」だけの香り。
ピーチの甘い香りを中心に苦味を含んだ柑橘系、クローブやシナモンなどのスパイスをブレンド。そしてオークモスやパチュリなどで構成される深くどっしりとしたシプレ調のベースノートが香り全体を支え確かなものにしている。クラシカルな中にもそこはかとなく優しい甘みが漂う香水である。
西欧から見たオリエンタルなイメージには極端な解釈や誤解などがよくあるが、「ミツコ」は本来の日本人女性が持つ魅力、しとやかさの中にある芯の強さや情熱、しっとりとした色香などが香りにうまく表現されている。それでいて香り自体も日本人の肌に合い、和装などにも似合うエレガントな香水である。
日本女性がもつ本来の魅了が失われつつある現代だからこそ、身に纏い、その香りの中にある真の美を見出してほしい。
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