香りの分析 〜fragrance analysis 〜
彼の恋人にとってクリスマスイヴはいつも特別だったという。少し浮き足立った気分やプレゼント、暖かい毛皮など、彼女はクリスマスを彩るものすべてを愛していました。
彼は彼女のためにクリスマスイヴをテーマにした香水を創作することを決意し、1922年に発売されたヌイ ド ノエルと呼ばれるその香りは、その後様々な香水のアコードに影響を与えるほど強烈なインパクトを持ったものとなるのです。
キャロンの創始者であり調香師でもあったエルネスト・ダルトロフが創る香水には、いつもストーリがある。そしてその香りの背景に横たわる風景までも鮮明に描かれ、私達に語りかけてくるのである。調香師としての教育を受けなかったダルトロフが創る香水は、規制の概念に囚われていなかったためか、独創性、芸術性に富み、そしてとりわけ温かい官能を持つ女性に訴えかけた。
ヌイ ド ノエルの独創性はローズアブソリュートと当時は珍しかった強い香り立ちをもつ合成香料によるという。自然の花々の香りを善としていた当時の流れとは逆行した、バラよりもバラらしい、まるで絵画のようなインパクトをもった強い香りであるが、そこにバイオレットなど青い香気をもつ花々の香りがブレンドされ、絶妙なバランス感を保っている。ヌイ ド ノエルはこの豊かで強いフラワーの香りからこっくりとしたクリーミーなベースノートへの変容も楽しめる。
エルメスのカレーシュ(1961)やロシャスのマダムロシャス(1960)の調香師であるギイ・ロベールはヌイ ド ノエルがこれら後世で発表れる香水のヒントになったと言い、「野生の毛皮のように官能的で不可思議な雰囲気をもつ香り」とヌイ ド ノエルを評している。
「クリスマスイヴの夜」の香りは、そのボトルからパッケージまでクリスマスのモチーフが用いられている。夜空のような光沢をもった黒塗りのボトルは艶かしく、まるでクリスマスプレゼントを開ける時の期待感にも似た、気分の高揚をもたらすのである。
誰にも訪れるクリスマスイヴの特別なひと時。忘れられない時間を過ごすために、ヌイ ド ノエルの魔法をかけてみませんか? そしてもちろん、類い稀な温かさを持つ官能的な香りは淑女の冬の装いに相応しい香水です。 |